2014年1月12日日曜日

リアル 13巻 感想

 本当は昨年末に上げる記事だったが、とある事情により今頃上げることになったリアル13巻の感想を書く。
 このブログで俺が書いている様々な勝手な感想は、基本的に俺がどうしても書きたいという気持ちにならないと書かれないのだが、リアル13巻により俺はそういう気持ちにさせられた。なぜなら、去年俺が読んだ漫画の中でこの年の瀬に読んだリアル13巻が、間違いなく最高傑作だからだ。ヤンジャンのこのサイズの漫画は基本的に定価600円だが、俺はリアル13巻が1500円で売られていたとしても買う。
 さて、そもそもこのブログで井上雄彦の「リアル」を取り上げるのは初めてなので、この漫画の基本的な筋をいつもの超適当あらすじで紹介しておこう。この漫画は、簡潔に行ってしまえば、バスケットに何らかの形で関わっている3人の若者が、それぞれの人生で直面する「現実」を描くものである。若者の内の1人は元は高校のバスケ部だが、高校を退学して自身の進路を模索している男。もう1人は、元陸上競技選手だが、先天性の病により脚を切断して陸上を止め、現在は車椅子バスケに人生を賭けている男。そして最後の1人は、最初の1人と同じチームでバスケットをプレイしていたが、交通事故により下半身不随になってしまった男である。これら3人の若者がそれぞれ直面する現実を描くのが、リアルという漫画の基本的な筋である。
 今回の13巻は、上で紹介した最後の1人の若者が直面する「現実」の中で出会った、1人の悪役プロレスラーの壮絶な戦いを描いている。最後の若者がリハビリの最中に出会ったこのプロレスラーは、自身と同様に下半身不随であった。
 俺が(他の巻も好きで、正直2012年に読んだ最高の漫画も「進撃の巨人」や(久しぶりに出版された)「HUNTER×HUNTER」を抑えてリアルだったが)13巻が好きな理由は、この1巻のみという短い巻だったとしても「プロレスラー白鳥の物語」として楽しめるからである。13巻は210ページだが、この210ページの中に、プロレスラー白鳥の始まりから終わりまでが非常に分かり易く描かれていると思う。単純に分かり易いというだけではなく、井上雄彦という漫画家の真骨頂だと思うが、登場人物の清濁併せた感情が、非常に克明に描かれている。そのため、特に何も考えなくても、たとえこの巻以外の巻を読んでいなくても、自然にプロレスラー白鳥という人物に共感できるようになっている。
 何より素晴らしいと思ったのが、「プロレスラー白鳥の物語」を通じて、上述した最後の1人の若者に未来へ向けた一歩を歩ませる決意をさせたことで、「プロレスラー白鳥の物語」もまた、単純な終わりではなく、受け継がれていくものだという、広がりのある納得のいく場面で13巻が終わったところである。シリーズものの漫画は、必ずしもこのような「きりの良い」展開で終わることができるわけではない。しかし、この13巻は、まさに理想的な巻の終わり方だったと思う。読者の多くは、無駄な悲壮感など抱くこともなく、充実した満足感を持ってこの巻を読み終えることができると思う。
 「バガボンド」のように、宮本武蔵という1人の男の人生における思索を追った話について、「まだ斬り合ってんのか」、「まだ変な農業やってんのか」、「まだぐだぐだ考えてんのか」と思う人が(もしかしたら)居るかもしれない。是非そう思った人にはリアル13巻を読んでみて欲しい。井上雄彦という漫画家が、話の長短に関係なく、読者の感情に揺さぶりをかけるような物語を書く能力を持っているということに、感嘆させられると思う。このように、1つ1つの始まりから終わりまでを無駄なく描ける者を「職人」と呼んだり、「プロ」と呼んだりするのだろうと思う。

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