2011年2月28日月曜日

セル 感想

 S・キングのセルを読んだ。いつも通り簡単にあらすじを紹介しておくと、たまたまボストンに仕事に来ていたクレイの目の前で、携帯電話を使用した人が突然暴れ出し、偶然出会ったトムとアリスと共に、暴動を続ける「携帯人」達から逃走していく内に、やがて事件の真相を知る・・・という話である。
 アイデアと設定がまさに現代小説にぴったりだと言える。発想としてはジャンプで連載されていた魔人探偵脳噛ネウロに登場する「電子ドラッグ」が本作における「パルス」に近い。また、仲間と共に銃器でモンスターと化した「携帯人」と対峙するという構図は、キング自身のダークタワーシリーズに通ずるものがある。クレイとローランドは(天地の差があると言えるほど)全然違うものの、ジョークを絶やさないトムとエディ、覇気のある女性であるアリスとスザンナというメインキャラクターについては、人格的に符合する部分があった。
 肝心の感想であるが、面白いがこれがキングの作品としてオススメできるとは言えない。ところどころ描写が大雑把になっていて、ダークタワーのような作者自身の病的なまでの愛情ではなく、着想自体の面白さに作者が引きずられて書いているように見えた。特にアリスの扱いに関しては最後に無理矢理意味を持たせたように見えてならない。中間部の彼女に関する一連の描写はまるまる削っても良いぐらい(本来的には)無駄だった。また、キングが書いている以上に事態の深刻さを読者が想像できてしまう設定なので、どうしても描写が足りていないように見られてしまうと思う。
 また、(今作に限られるわけではないが)今作においてはキングお得意の登場人物が感じる「繊細な恐慌状態」の描写が個人的には気に入っている。キングの作品においては登場人物の「恐怖」、「恐慌」といった状態は「今にも心が折られて気絶するかしないかの瀬戸際の状態」として描かれることが多い。今作においても特にアリスやジョーダンなどの思春期の不安定な人格が、こういった絶望的な状況でいかなる反応を見せるのか、ということをよく頭の中で考えて描かれていると思う。

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