2011年2月7日月曜日

エジプトのスネ夫と世界のジャイアン

 現在各メディアで頻繁に取り上げられている通り、エジプトの情勢がかなり不安定になっている。外務省の海外安全ホームページも、いつもの例にならって「渡航の延期をお勧めします」と注意を促している。これまたいつも通り現地に突撃したこのブログで何回か登場したアンダーソン・クーパーがボコられる事件も発生している。360°では安全のために滞在先では窓のカーテンを閉め切ったり、暴動がひどくなると滞在先自体を頻繁に変えるなどの措置を取っていると報道されていた。
 この暴動の根本原因は(評論家の皆さんはチュニジア政変の影響やエジプト国内の経済情勢にも触れたいだろうが)一言で単純に言ってしまえばムバラクを中心とした政府の圧政である。具体的な例を挙げると1981年以降実施されている政府緊急法という悪法がまず目に止まる。この法律ははっきり言って時代錯誤もいい所の昔の日本の治安維持法みたいなもので、現在国際社会で隆盛を極めている自由主義、民主主義といった価値観に真っ向から反発するものである。なので、時代の潮流からすればこういった悪法を実施するろくでもない政権が打倒されて新しい国民に開放された政治体制になっていくんだろうな、ということは誰でも分かる。まあ頑迷固陋な主張を振りかざす「フリ」で中身は腐敗に満ちた権力欲・金銭欲でいっぱいの多くの「ジャイアン」(実際はジャイアンよりよっぽどたちが悪いが)たちは知らんぷりを決め込むことに全力を注ぐという不毛な努力をしているようだが、まず展望が無い。
 それではこうしたジャイアン達が展望が無い中どうやって頑張ってきたかというと、それはもっと大きなジャイアンであるアメリカにへこへこしてスネ夫の役割を演じることだったのだ。アメリカの理念は国際政治の側面で二面性を持っている。1つの顔は自由と民主主義の拡大であり、もう1つの顔はこうした理念の共有以上の具体的な覇権の拡大である。最近行われた中国の首脳との会談で「人権」という言葉で何度も主張された通り、アメリカは政治信条として自由と民主主義の拡大を基底に置く。その一方で、アメリカは冷戦期以後依然として「世界各国が親米派で埋め尽くされればいいな」という幻想も抱いている。新しく誕生する政権は「できれば」親米であれば良いし、新しく誕生する国のトップは「できれば」親米であれば良いと思っている。そして親米であれば「まあいろいろ政治主張はあるんだろうけど、仲良くしてくれるんだったらいいよ」という態度を取り続けている。ムバラク達スネ夫はここに目を付けて、実際は自由や民主主義に全く反する政策を実行しながら、アメリカという「世界のジャイアン」への支持を明言することで国際社会における批判を回避してきたのだ。
 今回のエジプトにおける暴動に際して、2つの顔の内、表の顔で「民主化への移行」を促しているオバマ政権は、内心エジプトに新しく生まれるであろう新政権がどうなるかひやひやしているだろう。自由な選挙をやってみたら反米イスラム原理主義者がリーダーに選ばれる可能性もあるからだ。そして皮肉なことに、自由と民主主義を守るための「テロとの戦い」という文脈においてこそ、ますますジャイアンにとってのスネ夫の価値は上がっている。

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